. みなさま、こんにちは! 大阪・池田市にある天然染料と染め直しの店「貴久(Kikyu)」です。
2月に入り、暦の上ではもう春ですね。
少しずつ日が長くなり、梅の便りも聞こえてくるこの季節。
新年度や春の衣替えに向けて、そろそろクローゼットの整理(断捨離)を始めている方も多いのではないでしょうか?
久しぶりに衣装ケースを開けた時、私たちはしばしば「ある悲劇」に直面します。
「あれ? ちゃんと洗濯してしまったはずの白シャツ、襟元が黄色くなっている…」
「お気に入りのリネンのブラウス、全体的になんとなくくすんでる?」
そう、「白い服の黄ばみ」です。
慌てて漂白剤につけてみても、頑固な黄ばみは完全には落ちてくれないことがほとんど。
でも、デザインも気に入っているし、着心地も良い。何より「愛着」があるから、ゴミ袋に入れるのは心が痛む…。
そんな「捨てられない白い服」をお持ちの皆様へ。
今年は「捨てる」のではなく、「天然染料で色を入れて救済する」という選択肢はいかがでしょうか?
今日は、黄ばんでしまった白シャツやブラウスを蘇らせる「染め直し」の魅力をお伝えすると同時に、ご依頼前に必ず知っておいていただきたい「リスク(シミの浮き出し)」についても、包み隠さず正直にお話しします。
少し長くなりますが、大切な服を長く愛するために必要な知識ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
なぜ、しまっておいただけなのに「黄ばむ」の?
まず、敵を知ることから始めましょう。
「洗ってきれいにしてから収納したのに、なぜ汚れているの?」と不思議に思いますよね。
この黄ばみの正体は、洗濯で落としきれなかった「皮脂汚れ(油分)」が酸化したものです。
繊維の奥に入り込んだ微細な皮脂は、目には見えません。
しかし、時間の経過とともに空気中の酸素と結びつき、リンゴの断面が茶色くなるのと同じように、じわじわと黄色く変色して浮き出てくるのです。
一度繊維の奥で酸化して定着してしまった黄ばみは、強力な漂白剤を使ってもなかなか元通りにはなりません。
むしろ、漂白剤の使いすぎで生地が傷んでしまうこともあります。
そこで貴久がおすすめするのが、「無理に白に戻すのではなく、色を重ねて楽しむ」という逆転の発想です。
ご依頼の前に知ってほしい。「見えない汚れ」が浮き出るリスク

「染め直せば、どんな汚れも綺麗に隠れますか?」
お客様からよくいただくご質問ですが、ここでお伝えしなければならない重要なリスクがあります。
それが、「汚れの炙り出し(あぶりだし)現象」です。
染料は「タンパク質」が大好き
私たちが使用する天然染料は、綿や麻などの植物繊維を染めるものですが、実はそれ以上に「タンパク質」によく反応し、濃く染まるという性質を持っています。 (※シルクやウールが動物性タンパク質繊維であるため、非常によく染まるのと同じ理屈です)
そして、人間の体から出る「汗」や「皮脂」にも、タンパク質が含まれています。
「見えない汚れ」が「濃いシミ」に変わる瞬間
一見、綺麗に見える古着のシャツでも、脇の下や襟元、背中などに、目に見えないタンパク質汚れ(汗の成分など)が残留していることがよくあります。
この状態で染め作業を行うと、どうなるでしょうか?
染料は、きれいな繊維の部分よりも、残留したタンパク質汚れの部分に吸着し、そこだけ「濃く」染まってしまうのです。
まるで、ミカン汁で書いた文字を火で炙ると浮き出てくる「炙り出し」のように。
染める前には見えなかったシミが、染めることによって「濃い色のシミ」として浮き上がってくる可能性があります。
貴久の対応と、お客様へのお願い
もちろん、当店でも染色前には丁寧に下洗い(精練)を行いますが、長年蓄積された頑固なタンパク質汚れは、プロの洗いでも完全に取り除くことが難しい場合があります。
この「炙り出し」のリスクは、古着を染め直す以上、どうしてもゼロにはできません。
そのため、ご依頼いただく際は、以下の点をご了承いただけますようお願いしております。
- シミが浮き出る可能性があること。
- それもまた、その服が過ごしてきた「時間の痕跡(味)」として受け入れていただくこと。
- または、リスクを目立たなくする「濃い色」や「馴染む色」を選んでいただくこと。
染められる服、染められない服。素材チェックのポイント
「リスクはわかったけれど、私のこの服は染められる素材なの?」 次に、素材による向き・不向きについて詳しく解説します。
お洋服の内側にある「品質表示タグ」をご確認ください。

✅ 染められる素材(OK素材)
天然繊維(植物・動物由来)が含まれているものが対象です。
- 綿(コットン): 最もきれいに染まります。
- 麻(リネン・ラミー): 染まりやすく、風合いも抜群に良くなります。
- レーヨン・キュプラ・テンセル: 木材パルプなどを原料とする「再生繊維」なので、よく染まります。
※ シルク(絹)・ウール(毛): 動物性繊維なので非常に濃くきれいに染まりますが、熱湯による「縮み」や「硬化(フェルト化)」のリスクが高いため、アイテムによってはお断りする場合や、リスクをご了承の上での施工となります。
❌ 染められない素材(NG素材)
化学繊維は、天然染料では染まりません。
- ポリエステル
- アクリル
- ナイロン
- 防水・撥水加工された生地(水を弾くため、染料も入りません)
⚠️ 混紡素材(ミックス)の場合

「綿 60% / ポリエステル 40%」のように、天然繊維と化学繊維が混ざっている場合はどうなるでしょうか?
ルール:天然繊維が50%以上あれば、お受けできます。
この場合、綿の60%部分は染まりますが、ポリエステルの40%部分は元の色のまま残ります。
その結果、全体的に色が薄まったり、白っぽい繊維がチラチラと混ざった「杢(もく)調」や「シャンブレー風」の仕上がりになります。
均一な色にはなりませんが、この「ムラ感」がヴィンテージ古着のような独特の味わいを生み出すため、あえてこの風合いを好むお客様も多くいらっしゃいます。
🧵 「縫い糸(ステッチ)」は白く残ります
多くの既製服(特にシャツやブラウス)では、生地は綿でも、縫い糸には丈夫なポリエステル糸が使われています。
そのため、生地を紺色に染めても、縫い目(ステッチ)だけは白く残ることがほとんどです。
ステッチがアクセントとして浮き出るデザインになることを、予めイメージしておいてくださいね。
それでも「染め直し」をおすすめする理由
「シミが浮き出るかもしれないし、糸は染まらない…なんだか難しそう」 ここまで読んで、そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。
それでも私たちは、「染め直し」にはリスクを補って余りある魅力があると信じています。
1. 汚れを「隠す」のではなく「馴染ませる」
完璧な新品に戻すことはできませんが、色を入れることで、黄ばみやシミは驚くほど目立たなくなります。
「汚れ」を敵対視するのではなく、グラデーションの一部として取り込んでしまう。
そんなおおらかな発想で、服の寿命を延ばすことができます。
2. 服を「育てる」喜び
天然染料で染めた服は、化学染料のようなのっぺりとした均一さはありません。
光の加減で色が変わって見えたり、着込むほどに体に馴染んで色が変化(エイジング)したりします。
「汚れたから捨てる服」が、「手をかけて育てていく一軍の服」に変わる。
その心の変化こそが、本当の意味でのSDGsであり、豊かな暮らしだと私たちは考えています。
白シャツ救済におすすめの「推しカラー」3選
最後に、黄ばみや「炙り出し」のリスクを上手にカバーしつつ、春らしくイメージチェンジできるおすすめカラーをご紹介します。
■ 印度藍(いんどあい)
【カバー力:★★★★★】 黄ばみの反対色(補色)に近い「青」は、黄色を打ち消す効果が非常に高い色です。
また、濃い色(インディゴブルー)であれば、万が一タンパク質汚れによるシミが浮き出ても、比較的目立ちにくいのが特徴です。
爽やかで清潔感があり、春夏のシャツとして最も人気があります。
■ 印度茜(いんどあかね)
【カバー力:★★★★☆】 「赤」や「オレンジ」といった暖色は、黄ばみ(黄色)と同系色のため、汚れがグラデーションのように綺麗に馴染みます。
顔色がパッと明るく見えるので、女性のブラウスや、リネンのストールなどに特におすすめです。
■ 矢車附子(やしゃぶし)
【カバー力:★★★★☆】 グレーと茶色が混ざったような、渋いアースカラーです。
「迷彩柄」に茶や緑が使われているように、アースカラーは汚れをカモフラージュする能力に長けています。
落ち着いた大人っぽい雰囲気に仕上がり、どんなボトムスにも合わせやすい万能カラーです。
まとめ:捨てる前に、もう一度だけチャンスを
衣替えの季節。 ゴミ袋に入れようか迷っているその白シャツ、もう少しだけ手元に残してみませんか?
完璧な美しさを求めるなら、新しい服を買うのが一番です。
でも、「愛着のある服と、形を変えてこれからも一緒に過ごす」という選択には、新品にはない温かい物語があります。
「私のこの服、染めたらどうなるかな?」 「素材がわからないから見てほしい」
そんなご相談も大歓迎です。 リスクも含めて、プロのスタッフが正直にお答えいたします。まずはタグの写真を撮って、LINEやメールでお気軽にお送りください。
皆様の大切な一着が、新しい色を纏って輝く日を楽しみにしています。
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