「お気に入りの服が、なんだか色あせてしまっている…。そんな時、あなたならどうしますか?」

こんにちは、染め屋 貴久です。
今回ご紹介するのは、お客様からお預かりした一枚の綿シャツ。
もともとは落ち着いたブルーのブロードシャツでしたが、「服の雰囲気を変えたい」とのご希望で、五倍子(ごばいし)による草木染めを施し、「藤鼠色(ふじねずいろ)」に染め直しました。


綿素材のシャツを、草木染めでリデザイン

シャツは綿100%のブロード生地。さらりとした手触りと程よいハリが魅力です。
「色あせてしまったけれど、まだ着たい」との思いを込めて、染め直しのご依頼をいただきました。
草木染めでは、**素材の吸着性(タンパク質の有無など)**によって色の入り方が変わりますが、綿は比較的安定して染まりやすい素材。
今回は、その特徴を活かしつつ、やさしく落ち着いた印象の藤鼠色に仕上げていきます。


藤鼠色に染めてみたら…意外な色合いが?

使用した天然染料は「五倍子(ごばいし)」。
媒染には「鉄媒染」を用い、渋く上品な色合いに。
仕上がった色は、思っていたよりも青みの強い藤鼠色になりました。

これは元々のシャツがブルーだったため、その下地色の影響を受けて染め上がった結果です。
草木染めでは、この「素材×元色×染料」の組み合わせによって、一つとして同じにはならない独自の色合いが生まれます。


五倍子(ごばいし)とは?もっと深く

五倍子は、**ヌルデ(白膠木)という木に寄生するアブラムシの一種(ヌルデシロアブラムシ)によってできた“虫こぶ”**が原料。
その虫こぶを乾燥させたものを「五倍子(ごばいし)」と呼びます。

名前の由来は、**「重さが五倍ほどある実のような形状のもの(実のようで実でない)」**という意味から来ています。
乾燥した五倍子はタンニン(植物性ポリフェノール)を多く含み、染料以外にも、日本や中国で古くからさまざまな用途で使われてきました。

五倍子の用途(歴史的エピソード)

  • 墨やお歯黒の原料として:タンニンが鉄と反応すると黒くなる性質を活かし、昔は「お歯黒」の原料にも使われました。
  • 和紙の防腐処理:墨や和紙の耐久性を上げるための防腐処理に。
  • 皮革のなめし:植物タンニンを使った皮なめしにも。
  • 漢方薬:止血・整腸作用があるとされ、古くは薬としても使われていました。

五倍子は、**「染める・書く・守る・治す」**と、昔の人々の生活をあらゆる角度で支えてきた存在なのです。


藤鼠色(ふじねずいろ)とは?──伝統色の奥ゆかしさ

藤鼠色は、日本の伝統色のひとつで、「藤色」と「鼠色(グレー)」が合わさった上品な中間色です。
藤色=淡い紫色
鼠色=無彩色の中間グレー
つまり、「やや紫みを帯びたグレー」という、控えめながら品のある色合いで、江戸時代以降に好まれた色彩です。

歴史的エピソード

  • 江戸時代、奢侈禁止令(しゃしきんしれい)により「派手な色」が禁じられたため、藤鼠のような落ち着いた中間色が粋な色として流行しました。
  • 特に**武家や町人たちの装いに使われることが多く、「美意識と控えめさの象徴」**とされました。
  • 女性の着物の地色や裏地に使われることもあり、気品ある美しさを密かにまとう色とされていました。

鉄媒染とは?──草木染めの色を支える“縁の下の力持ち”

媒染(ばいせん)とは、染料の色を定着させるための工程のこと。
草木染めでは、染料だけでは布にうまく色が入らないため、「媒染剤」を使って染料と繊維を化学的に結びつけます。

鉄媒染とは、**「鉄を使った媒染法」**のことで、鉄分と植物タンニンが反応し、黒やグレー、くすんだ紫色などの渋い色合いになります。

昔の人々の鉄媒染の方法

昔は今のような試薬はありませんでしたが、以下のような身近な素材で鉄分を抽出していました

  • 古釘(ふるくぎ)や錆びた鎌・鍋のくず鉄
  • お酢や木酢液、灰汁(あく)など酸性の液体に浸して鉄を抽出

このようにして作られた「鉄液」に布を浸すことで、草木染めの色がしっかりと布に定着しました。

ちなみに、鉄媒染は染める人の**“経験と勘”がものをいう世界**でもあります。
鉄液の濃さ、浸す時間、温度などのわずかな違いが、仕上がりの色味に大きく影響を与えるため、熟練の技が必要なのです。


ミシン糸が“装飾ステッチ”に!染まらないことで生まれるデザイン

実はこのシャツ、ミシン糸がポリエステルだったため、染まらずに元のブルー色のまま残りました。
結果的に、その糸がステッチのように浮き上がり、まるでデザインの一部のような装飾効果に!

お客様からはこんなお声も:

「素敵な色に仕上がっており着るのが楽しみです。特にブルーシャツが元の色とあいまって素敵な色になっていますね。ミシン糸がステッチのように見えるのが良いです!」

染め直しだからこそ生まれる“偶然の美”は、まさに一点物の魅力です。


染め直しのメリットとは?

  • 色あせた服を再び着られるようになる
  • 雰囲気をがらりと変えて新しいスタイルに
  • 好きな服を手放さずに済む
  • 環境にもやさしい、サステナブルな選択
  • 他にはないデザインに仕上がることも

「染め直し、興味はあるけど…」そんな方へ

「どんな色になるのか想像がつかない」「初めてでも大丈夫?」
そんな不安をお持ちの方も、どうぞ安心してご相談ください。

染め屋 貴久では、一つひとつの服と丁寧に向き合いながら、お客様と一緒に「次の一着」として蘇らせるお手伝いをしています。


思い出の服を、もう一度あなたの暮らしへ

天然染料のやさしい力で、染め直してみませんか?
思い出の服が、また“着たくなる”一着になりますように。


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