草木染めで黒色に染める 憲法黒のこと

草木染めで黒色に染めることが出来るのかなって思いますよね。
それが染まるんです。
草木染めが一度で染まる訳ではないんですけどね。

貴久で草木で染める黒色は憲法黒です。

憲法黒という呼び名の由来は、京都の剣豪吉岡憲法が江戸時代の初めに染めた黒色からと言われています。
吉岡憲法は室町時代に足利将軍家の兵法師範として名声を高めていたとされています。
あの剣豪宮本武蔵と立ち会ったのは吉岡憲法の3人の息子だと言われています。

関が原の戦いで豊臣方に付いたため敗戦側に付いたこととなり剣を捨てたそうです。
その後門人であった李三官から染色を伝えられ染色業に携わるようになったといわれています。

吉岡家が得意とした黒染めは憲法黒や憲法茶などと呼ばれました。
憲法黒は最初のころは檳榔子を鉄媒染で発色する方法を用いていました。
檳榔子が高価だったために後に楊梅(ヤマモモ)で染めるようになったそうです。

吉岡染はなかなかに隆盛したようで吉岡家から分家した染屋が堀川通の東西に軒をつらね「吉岡」の名は染屋の代名詞だったそうです。

染め直し 憲法黒に染める

依頼品は白のTシャツ

今回染め直しの依頼があったのは白色の綿のTシャツです。
染め直しですのでご着用されていたTシャツです。

憲法黒とは関係ないのですが染め直しに関してご注意頂きたいことが1点。
染め直しをする際に、ご着用されていたものは見えてはいませんがタンパク質などの物質が付着している場合があります。
もちろん洗濯をされていますので見えてはいません。
でも繊維の中に残った物質に染料が反応してシミが浮き出てくる場合があります。

染め直しのリスクとしてご理解下さい。

まずは藍染で縹色に染めます。

先述しました様に憲法黒に使われる染料は楊梅(やまもも)の樹皮です。
楊梅は別名「渋木(シブキ)」とも言われ古来染色に使われてきました。
黄色がかった茶色に染めることが出来ます。

吉岡染では、これに鉄媒で発色させて黒茶系の色に染めました。

江戸時代の指南書によりますとより黒を濃くするために下染めに藍を使ったそうです。
ただ吉岡家が藍を下染めに使っていたかは不明の様です。

貴久では憲法黒に染めるのに下染めに藍を使います。


まず下染めに藍染をします。
インド藍を使った化学建てになります。

インド藍はインド生まれの藍の品種で染めの原料世界中で使われています。
世界最古の藍染料と言われインダス文明の遺跡からも染色槽跡が発見されています。

マメ科の植物で、葉に含まれる成分を抽出して藍染に使います。

今回の藍染は化学建てですので、使用する薬品は2種類です。
炭酸カリウムとハイドロサルファイトです。

ハイドロサルファイト(はいどろ)は還元剤として使用します。
ハイドロの還元作用を利用してインド藍を染められるようにします。

染め下である藍染は、深い黒に染めるためにしっかりと染めるようにします。

楊梅で染め重ねます。

楊梅の樹皮の染料のチップです。
ヤマモモの名前は山に生えモモのような実をつけることが由来の様です。
漢名は楊梅(ヤンメイ)といいます。

樹皮に多くのタンニンが含まれるため楊梅皮(ようばいひ)という生薬になって、タンニンを多く含むために下痢止めや消炎剤に使われました。
タンニンを多く含むために鉄媒染をすれば色濃く染まり憲法黒に最適でした。

楊梅のチップを煮込んで染液を作ります。
貴久では3回に分けて染液を作ります。

その間に藍染で染め下をしたTシャツをミョウバンで先媒染します。(アルミ媒染)
これは、楊梅の色素を呼び込んでくれて濃く染めてくれます。

出来上がった染液は楊梅のチップからもわかるように茶色い液体です。
これが鉄媒染をすることで黒に染まるとは不思議ですね。
これもタンニンが多くあるためです。

ミョウバンで先媒染をしたTシャツを染液に入れて70℃まで温度を上げます。
1分に1度くらいのスピードです。
その間はずっと攪拌棒でゆらゆらと混ぜ続けます。
大変な作業ですがムラにならないための大切な工程です。

その後一晩寝かします。

中媒染に鉄媒染をします。

黒味を強くするために鉄媒染をします。
貴久では鉄媒染には木酢酸鉄を使っています。

木酢酸鉄を40℃のお湯に入れます。
これで鉄媒染液の出来上がりです。

鉄媒染液に楊梅で染めたTシャツを浸し媒染を始めます。
20分間攪拌棒で、ゆっくりと動かし続けます。
これもムラにならないためです。

もう一度、楊梅の染液に戻して65℃まで温度を上げます。
先程と同じ要領でゆっくりと上げて下さい。

染液から引き揚げて洗います。
しっかりと洗剤を使って洗ってください。
染め上がりです。

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